神秘の臓器〜胎盤〜
胎盤は古来より神秘的な臓器と考えられていました。古代エジプトでは「External soul(外部の魂)」と呼ばれ、中国では「紫河車」の名前で漢方薬として用いられてきた歴史があります。
紫河車の“河車”とは、父と母から生まれる生命の源のことで、胚胎がそれに乗って生まれ出る乗り物であるという考えで名付けられたそうです。また、中国では古くから不老長寿の仙人になるための秘薬を“河車”と呼んでいたといわれています。
一方日本では、出産後の胎盤は胎児を包んだ胞衣(えな)として、良い方向に埋めておかないと後で祟りがおこるなどの迷信がありました。
胎児と胎盤を結ぶ「へその緒」は、お母さんと赤ちゃんを繋ぐ絆の象徴として、子どもが大きくなるまでずっと大切に取っておくと言う風習がいまも根付いています。
生命誕生に不可欠な臓器
一般に妊娠は10月10日といわれるように、おおよそ10ヶ月が妊娠期間であるとされています。
この短期間に1個の受精卵から各種細胞が分かれ増殖し、成長してさまざまな器官や機能がつくられ、胎児が育っていきます。
考えてみると、約0.1㎜の受精卵がたった10ヵ月ほどで3,000gほどの赤ちゃんに育つなんて驚異的なスピードですね。
妊娠中はそのぐらい濃縮された期間を過ごす大事な時間といってもいいでしょう。
その複雑な過程の中で、胎盤が担っている主な役割は以下の通りです。
・栄養補給
母体と胎児とでは必要な栄養素が違うため、お母さんが食べたものが直接届くのではなく、胎児の発育に伴って必要なものだけを胎盤が処理して供給します。また、病原菌などの有害な物質を阻止してくれる働きもします。
・臓器の代替
胎児は胎盤を通じて、お母さんの血液から酸素を受け取り炭酸ガスを放出します。そのほか、老廃物の処理、解毒作用なども胎盤を通じて行われます。
・ホルモン分泌
成長に必要な各種ホルモンは胎盤で大量に合成され、母体の維持や胎児の急速な発育に利用されます。
・細胞増殖因子をつくる
細胞増殖因子は、細胞の分裂を適切にコントロールするタンパク質の総称。細胞増殖因子がなければ、細胞は新たにつくられることはありません。たった1個の受精卵を分化して増殖させ、40〜60兆個の細胞をもつ赤ちゃんが育つのは、胎盤がつくり出す細胞増殖因子のおかげなのです。
このように胎盤は、胎児の成長のために必要なほぼすべての機能・役割を担います。そして、最終的にはその機能をすべて赤ちゃんに託して、出産とともに役割を終える、短い期間ですが恐るべき能力を持った臓器なのです。
使命を果たしたとはいえ、その時点でも胎盤は豊富な栄養と、各種の有効成分を含んでいます。草食動物でさえ、出産直後は栄養豊富な胎盤を食べることで体力を回復します。動物たちは本能でプラセンタの力を知っているのでしょう。
胎盤は人にとっても動物にとっても、まさに“母なる臓器”。この恩恵を、現代の科学とテクノロジーで、人の身体に役立てるための取り組みが、より一層進められています。